地域医療推進のためのがん患者のだ液の多型情報と原発巣体細胞変異情報による術後管理システムの構築(九州大学倫理承認出願中)

分子標的薬の登場により進行・再発固形がん症例の予後は飛躍的に改善されてきました。しかし、有害事象発現のため、薬剤の減量・中止・変更をしなければならない症例や、期待通りの抗腫瘍効果を認めない症例が存在し、バイオマーカーの確立は喫緊のそして長年の課題です。また、個々の患者の精緻なゲノム情報が解析できる様になり、ゲノム変異情報に基づく個別化医療は実用化されつつあります。
具体的には担がん患者の1)遺伝的背景因子である遺伝子多型情報2)がん原発巣局所における体細胞変異情報とがこれに相当します。両者を包括的に解析しかつ有機的に連携させることは、がん患者のQOLの向上と全生存率の改善に寄与すると期待されます。

また個々のゲノム変異情報を精確に把握し、基幹病院と地域の各連携医療機関とで時・空間的に情報共有できれば、在宅地域医療を推進させるなど、より社会実相に適合したがん診療が期待できます。われわれはゲノム情報と臨床情報を高度なセキュリティの管理のもとクラウド上で運用し、遺伝子多型情報および体細胞変異情報が実臨床の経過観察において重要かいなかを明らかにしたいと思います。真の個別化医療実現のために共同研究医療機関との間における情報共有のシステムを構築したいと考えています。

1)唾液中遺伝子多型:副作用や治療効果の予測と個々において注意すべき疾患発症の予測が可能か、明らかに! 
抗腫瘍薬による副作用発現に関与する一塩基多型(SNP)や高血圧などの疾患発症に関与を示唆されている遺伝子多型が報告されています。現在某有名IT企業はCPIGI自主基準認定*を取得しており、豊富なSNPデータライブラリと統計情報に基づいて、唾液から抽出したDNAの遺伝子多型解析による疾病発症予測を基にした健康管理を提案するサービスを行っています。同社と連携して遺伝子多型解析を行い、薬剤と有害事象や抗腫瘍効果との関連、原疾患関連の疾病発症リスクについて検討し、治療経過を追う上での注意喚起に有用か否かを検証します。 
*個人向けの遺伝子検査ビジネスを手がける業者で作るNPO法人「個人遺伝情報取扱協議会」(CPIGI、加盟37社)は加盟企業9社の信頼性などが自主基準を満たしていると認定しました。すなわち、Yahoo社および株式会社ジーンクエストとともに、平成28年5月にCPIGI自主基準認定を取得。これにより、(1)第三者機関から科学的根拠としての信頼性が担保されること、(2) 第三者に提供する際に「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(ゲノム指針)を遵守していること、(3) クラウドに情報を保存することに関しての安全措置がなされること。以上が外部機関において保証されていることになります。

2)原発巣の体細胞変異:治療法の妥当性を評価する、再発時に必要な分子標的薬を予め同定!  
現在、標的分子変異が明らかな治療薬は2016年2月の時点で日米で承認されたものだけで70、臨床試験ステージにある低分子性分子標的抗がん剤(全11キナーゼ・機構)は、受容体型チロシンキナーゼ標的だけで195化合物存在し、他の10キナーゼと合わせると641化合物が存在します。
すなわち標的遺伝子変異がわかれば正確な治療薬が自ずと決まる化合物が711種類存在することから、罹患した癌種を凌駕(無視)して患者別に精緻な標的分子薬を決定できる可能性があります。したがって本研究では、消化器がん・乳がんの原発巣を解析して、個々の症例における重要な遺伝子変異を同定します。

3)開業医とのネットワーク:情報共有を基軸としたがん診療の推進:
高齢社会の到来に伴い、複数の医療機関の受診や重複処方などを背景に医療費の高騰が問題となっています。
現在九州大学病院別府病院では、別府市医師会を中心に発足した「ゆけむりネットワーク」を基に、市内の医療機関との間で緊密な連携をしており「患者臨床情報」を共有することについては、自治体レベルですでに多くの経験と実績を有します。
他方、世界ではすでに患者情報をクラウド上で共有するシステムは行われ始めております。現在、某IT企業の提供するDNA解析サービスは、解析情報やアンケート情報に基づいて利用者に必要な健康情報の提供にあるが、セキュリティが担保されたクラウド上で第三者からは個人を特定しえない中での多型情報および癌ゲノム情報の蓄積で得られる知見は豊富かつ重要であり新たな予防医療に貢献しうると考えています。  
ただし、本臨床研究においては、該当する患者のかかりつけ医が 把握しても、診療への介入はせずに、ゲノム情報と実際の臨床的経過との相違点について観察研究を行う予定であります。ただし、実際の臨床上、著しく患者にとって重要な情報が得られた場合には、治療に介入するかいなかについて、あらためて倫理委員会に相談し必要であれば審査を受ける予定です。