Genomic Landscape of Esophageal Squamous Cell Carcinoma in a Japanese Population. Sawada G, Niida A, et al. Gastroenterology. 2016 May;150(5):1171-82.

■食道がんには、腺がんと扁平上皮がんがあります。欧米では腺がんが多いですが、日本では90%以上が扁平上皮がんであり、人種により食道がんの性質は異なります。日本人に多い食道扁平上皮がんは、酒とタバコといった生活における環境因子が発がんの危険因子として知られていますが、日本人ではアルコール代謝酵素に関わる遺伝子多型(DNAの配列の個体差)といった遺伝因子も危険因子であることを教室OBの田中文明先生等が明らかにしました(Tanaka F. et al. GUT 2010)。

■DNAに含まれるすべての遺伝情報を「ゲノム」といいますが、がん研究においては、ゲノム解析は、がんの発生する原因や病態の理解のために重要です。我々が行った日本人の食道がんの大規模なゲノム解析と詳細な生活習慣の調査から、日本人食道扁平上皮がんを対象として、詳細な生活習慣の調査とスーパーコンピューターを用いた過去最大規模の遺伝子解析を行い、その遺伝子異常の全体像を明らかにしました。その結果、日本人扁平上皮がんで特に重要と思われる15個の遺伝子を同定、さらに遺伝子的にアルコール代謝酵素の活性が低い人がかかる食道がんで特徴的にみられる遺伝子変異のパターンを同定しました。現在、がん細胞が持つ特定の分子を狙い撃ちする治療の研究が世界中で行われていますが、このようなゲノム解析により狙い撃ちする標的を見つけ出すことも期待されています。

■近年の技術の進歩により、がん細胞から漏れ出た血液中のDNAを検出することができるようになり、セルフリーDNAと呼ばれています。我々は、食道がんの手術後の患者さんの血液を採取し、血液中のセルフリーDNAを経時的に調べることにより、従来の血液検査(腫瘍マーカー)やCT検査、内視鏡検査よりも早く再発を発見できることを見出しました。この技術は、将来的には患者さんに負担の少ない血液検査だけで、がんの早期発見や再発の予測ができる可能性があり、今後の研究が期待されています。教室では癌撲滅に向けて、新たな予防法、治療法の開発を目指し、様々な研究に取り組んでいます。 

Somatic mutations in plasma cell-free DNA are diagnostic markers for esophageal squamous cell carcinoma recurrence. 
Ueda M. et al. Oncotarget. 2016 Sep 20;7(38):62280-62291.

■食道扁平上皮癌(ESCC)は予後不良な癌腫の一つであり、長期予後を改善させるために、再発予測を可能とする新たな正確なバイオマーカーが希求されている。cfDNAは血液中に存在する塩基長70~200bpのDNA断片であり、壊死やアポトーシスに至った細胞より血中へと放出される。癌患者では、癌細胞由来のcfDNAが血液中に存在することが知られている。  われわれはESCCにおけるゲノム変異の全容を 解明したことから、ゲノム解析の結果得られたドライバー遺伝子(下記の左図の如く選定した53遺伝子)の突然変異が、血液中のcfDNAにおいても同定できるかを明らかにする。 

   

■ 13症例の経時的採血の結果、合計57個の突然変異を認めた。28個(49.1%)が血液でも同定可能でありました。原発巣と血漿とを比較したところ、10人の血漿にて突然変異が同定可能でありました(83.3%)。またstage IAでも血漿中で同定可能な症例がありました。
右図は、通常の血清SCCでは検出しえなかった12ヶ月目の肝転移再発をctDNAで見事に検出したもの。直線でむすぶと術後4ヶ月目には上昇をはじめており、8ヶ月前からの早期発見が可能な症例でありました。
この様に、再発転移の早期診断法のひとつとして、循環血液中のctDNAの検出と分析に力をいれています。